JST-RISTEX RInCA 後藤班における患者・市民参画(PPI)の目的

(出典: 渡部作成)
患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)とは、研究者や専門家だけで研究を進めるのではなく、患者・家族、障害や疾患の当事者、市民などの視点を研究の過程に取り入れ、ともに考えていく取り組みです。
本研究班では、医療・福祉・保健、病や障害に関する歴史的資料・記録を「ヘルスケアアーカイブズ」と位置づけ、その保存と利活用のあり方を検討してきました。こうした資料には、個人の病歴や障害、家族や地域社会の経験、医療・福祉制度の歴史など、きわめて機微な情報が含まれる場合があります。そのため、資料をどのように保存し、どのような条件で公開・利用していくのかを考える際には、専門家の判断だけでなく、多様な立場の人びとの視点を反映することが重要です。
この目的のもと、本研究班では患者・市民アドバイザリーボード(PAB: Patient and Public Advisory Board)を設置し、患者・家族、障害当事者、市民、支援団体関係者などのメンバーとともに議論を重ねてきました。PABでは、歴史的資料を実際に読み解きながら、過去の医療や福祉に含まれていたELSI(倫理的法的社会的課題)について検討するとともに、ヘルスケアアーカイブズの保存・公開・利活用に必要な倫理的配慮について話し合ってきました。
本研究班におけるPPIは、単に意見を聞く場ではありません。資料の読み方、公開にあたっての配慮、利活用の目的、成果を社会へどのように還元するかといった課題について、研究者と患者・市民が継続的に対話し、研究とアーカイブズの運用に反映していくための協働の仕組みです。
ヘルスケアアーカイブズを社会にひらいていくことは、過去の医療や福祉のあり方を検証し、病や障害をもつ人びとの経験を歴史の中に位置づけ直すために重要です。同時に、差別や偏見、二次被害を防ぎ、関係する人びとの尊厳を守るための慎重な配慮も欠かせません。本研究班では、PPIを通じて、資料を残すことと、資料に関わる人びとを尊重することの両方を大切にしながら、ヘルスケアアーカイブズのあり方を検討しています。
患者・市民アドバイザリーボード(PAB)メンバーインタビュー
本研究班では、医療・福祉・保健、病や障害に関する歴史的資料の保存と利活用のあり方を検討するにあたり、患者・市民の視点を取り入れるため、患者・市民アドバイザリーボード(PAB: Patient and Public Advisory Board)を設置しました。
PABは、公募により参加した市民メンバー3名と、患者・障害者・家族団体等に関わるメンバー5名の計8名で構成され、2023年後半から2026年3月まで、約2年半にわたり研究者とともに活動してきました。活動では、旧優生保護法、ハンセン病、精神科病床などに関する歴史的資料をもとにしたワークショップや、医療・福祉アーカイブズの倫理的配慮に関する検討会を重ね、記録を「何のために、誰のために残すのか」、また「どのように公開し、利用していくべきか」について議論してきました。
本インタビューでは、8名のPABメンバーに、研究班への参加の経緯、歴史的資料を読んだ際の印象、PPIに参加するなかでの気づき、そして医療・福祉アーカイブズに期待することを語っていただきました。記録の保存は、単に過去を残す作業ではありません。そこには、患者・家族・障害のある人びとの経験を未来の社会にどう手渡すのか、そして過去の差別や人権侵害をどのように見直し、よりよい制度や実践につなげていくのかという問いが含まれています。
本記事を通じて、医療・福祉に関する記録を保存し、社会にひらいていくことの意味を、PABメンバーの言葉から考えていただければ幸いです。
*患者・市民アドバイザリーボード(PAB)メンバー
石井保志、小幡恭弘、久乗エミ、小島幸子、藤井克徳、中島福代、永森志織、増田一世(50音順)