本研究班では、医療や福祉、保健、病や障害に関する歴史的資料・記録を「ヘルスケアアーカイブズ」と位置づけ、その保存と利活用のあり方について検討してきました。
ヘルスケアアーカイブズには、患者、家族、障害のある人びと、支援者、医療・福祉・保健の実践に関わってきた人びとの経験や活動の記録が含まれます。それらは、過去の制度や実践を検証し、医療・福祉・保健をめぐるELSI(倫理的法的社会的課題)を考えるうえで重要な手がかりとなります。一方で、疾病や障害、受療歴、生活状況、家族関係などに関わる機微な情報を含みうるため、保存・公開・利活用にあたっては、プライバシー保護、差別・偏見や二次被害の防止、利用者の責任、利活用審査、アクセシビリティなど、多面的な倫理的配慮が求められます。
本文書「ヘルスケアアーカイブズの保存と利活用における倫理的配慮――医療・福祉・保健・疾病・障害に関する歴史的資料を継承し社会にひらくために――」は、こうした課題について、研究者と患者・市民アドバイザリーボード(PAB)が2023年から2026年にかけて対話と議論を重ねながら整理したものです。特定の機関に一律の基準を示すものではありませんが、医療機関、福祉施設、患者・障害者団体、支援団体、文書館やアーカイブズ所蔵機関などが、医療や福祉、保健、病や障害に関する資料・記録の保存と利活用のあり方を考える際の手がかりとなることを目指しています。
ヘルスケアアーカイブズを社会に継承し、必要に応じてひらいていくことは、過去を保存するだけでなく、未来の医療・福祉・保健のあり方を考えるための基盤をつくる営みでもあります。本資料が、関係する機関・団体や市民の皆さまにとって、保存と利活用の意義、そしてそれに伴う倫理的責任を考える一助となれば幸いです。